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tempo rubato ~鎌倉散歩~

初詣の想い出

       中学生のヒロシは、紅白歌合戦が終わると家を飛び出して自転車に
       またがり友達との待ち合わせ場所に急いだ。 元旦の早朝にかけて
       初詣する、一大イベントの始まりだ。

       「さぁ、行くべ!」

       ほどなくして、裏駅にあるテニスコートに到着した。コートの塀の
       脇に自転車を止めて、鶴岡八幡宮へ足を弾ませた。まずは参拝だ。
       時刻が0時を回り新年を迎えた頃は、参拝の混雑もピークになって
       いた。 三の鳥居前、社務所前、大銀杏前、と三箇所での入場規制
       をやっとの思いでくぐり抜け、ポケットから100円玉を賽銭箱へ。

       「今年もよい一年になりますように。」

       参拝を済ませると、荏柄天神へ。そしてマックで一休み。熱い珈琲
       が冷えた身体に染み渡った。 狭い店内は初詣の同士たちや、恋人
       たちで一杯だ。 暖かい店内に入っていると、猛烈な睡魔が襲って
       きた。

       「さぁ、海へ 急ごう!」

       初日の出を拝むため、ヒロシたちは由比ガ浜へ向かった。日の出は
       午前7時頃だ。 それまで、焚き火をして暖をとった。 悪戦苦闘する
       周囲の人たちを尻目に手際よく火をつけ海岸近くにあった燃えそうな
       木々を集めて火をおこした。  まだ、まっくらな砂浜に浮かぶ焚き火
       の炎がやけに眩しかった。

       ふと気がつくと、東の空が、明るくなってきた。

       初日の出。

       逗子の山の稜線から顔を出す、明るい太陽に、その年の平安を子供
       心に願った。

       「今年もよい一年でありますように」

       ヒロシたちは、砂浜の砂をかけて火を消すと、寝不足で気だるい体
       と重い瞼に耐えながら、裏駅に戻るのであった。

                           ***
                  昭和50年代の鎌倉初詣の「想い出」。

        注:現在では海岸での「個人による焚き火』は厳禁です。念のため。

by jeanhiroshi | 2006-12-31 00:30